大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)71号 判決

(争いのない事実)

一 特許庁における手続経過および本件審決の内容に関する原告主張の一、二の事実は当事者間に争いがない。

(要旨認定について)

二 原告は本件審決が本願発明の要旨認定を誤つている旨主張するが、原告が特許庁に出願書類およびその訂正書として提出したものであることが、その方式趣旨ならびに弁論の全趣旨から明らかな乙第二、第三号証、同じく原告が抗告審判手続において提出した書面であることが明らかな乙第六から第一三号証および同第一七号証の各記載を綜合すれば、本願発明の技術内容は、本件審決において認定された要旨によつて正確に表現されていると認めるに十分であり、原告主張のような要旨としなければ、正確な技術内容の表現とならないとしなければならないものではない。〔審決に「屋根張基礎物(13)(14)(15)を座金(11)を貫通させて」とあるのは「屋根張基礎物(13)(14)(15)と座金(11)を貫通させて」の誤記と認められる。なお、「前記縦鉄筋(5)を隣接ブロツクの側面の凹溝によつて形成される孔………または貫通孔(2)を通して上方に突出させ………」とあるのは、基礎盤上に固定された複数個の縦鉄筋のうち、第一段の隣接ブロツクの側面の凹溝によつて形成される孔(目地孔)を通るものと第一段各ブロツクの貫通孔(2)を通るものとを交互に配する(したがつて破れ目地積みされた第二段では、逆に前者が貫通孔を後者が目地孔を通るようにする)場合を含む趣旨にしたがつて、前記「または」とあるのは「またはおよび」と解すべきである。〕

なお、念のため付言するならば、特許願に添付すべき明細書の記載は、その発明の全体を客観的に表現しうるよう、その用語も、学術用語を、その有する普通の意味において使用すべく、しかも、技術的に明瞭かつ正確であること、したがつて、その反面技術内容のはつきりしない用語は用いないという一般的要請があるところ、本件審決が右の要請に合致するよう、原告の出願書類から、その要旨を認定したのに対し、原告が本願発明の要旨として主張するところはかえつて、この要請から遠ざかり、その技術内容を不明にするきらいがあるといわざるをえない。

例えば、「公知凹溝」あるいは「公知空隙」のような用語は、出願当時においていかなる公知技術が存在していたというのかが、この文言をもつてしては客観的に表現されているとはいえないし、また「現在業者の施行通り」という表現によるも、いかなる技術内容が包含されるべきかは明確を欠くものというほかはないのである。

(公知例との対比)

三 そこで、本願発明を、本件審決の挙げる二つの公知例をもつて拒絶するのが相当かどうか判断すべきところ、先ず、本願発明の技術内容についてみるに、前掲乙第二号証の明細書、同第三号証の訂正書の記載からみると、本願発明のねらいとするところは、在来のブロツク壁作りの方法においては、目地に練モルタルを使用してブロツクを固着させるが、このモルタルはブロツクのような異種物質の面とは自然に離反する性質があり、ブロツク壁が崩壊する危険があるので、これを解消して鉄筋コンクリート壁体に匹敵する強度を有するものとすること、鉄筋コンクリート壁体にあつては、平常時に荷重を支えるものは主として鉄筋の周囲に凝結したコンクリートによる構成物であり、鉄筋自体が平常時に受け持つ作用効果は少ないものとなつているが、この鉄筋をブロツク壁体の強化のため平常時も役立たしめること、このために、ブロツク並列を積増しするごとに、縦横のモルタル類充填孔に配装する鉄筋の両端部において締付竿ないしは強化材を介して縦横からブロツクを挾圧着するようにし、かつ縦鉄筋を短尺のものとし各段ごとに継ぎ足すものとして右施行に便ならしめたブロツク壁の築造方法を提供しようというにあるものと解される。

他方、本件審決の挙げる二つの公知例についてみるに、その方式趣旨から、特許庁が特許出願公告のために発行した公報であることの明らかな乙第一五号証、同じく実用新案出願公告のための公報であることの明らかな乙第一六号証の各記載によると、次の事実が認められる。

先ず、第一公知例である、昭和二六年特許出願公告第二、〇八九号公報には、石積建造物に関する発明が記載されており、基礎コンクリート上に配列した各積み石の上面に連なる細溝に通した横鉄筋の両端を両側に立つている柱である工形桿の凹溝内にそれぞれ突出せしめ、その各突出部にナツトを螺挿して、第一段の各積石を挾圧して横締めし、順次同様にして上方に石積みをするとともに、基礎コンクリート中に下端を固定した縦鉄筋〔各設立工形桿(両端のほか中間にも工形桿を設けた場合はこれをも含め)の凹溝に添わしめてある〕の上端を最上段の積み石の上に横置した工形桿の上方に突出させて螺締して縦締めし、なお、各積石の縦横接面にはセメント・モルタル等の結合材を介在させたうえ、四方の骨格と積み石とを一体的に結合させるという技術事項が示されている。

また、第二公知例である、昭和四年実用新案出願公告第五、六〇二号公報には、鉄筋コンクリート壁体に関する考案が記載されており、上下左右の面に凹凸部を有するブロツクを重ね積みするごとに、左右のブロツク接合部の溝内空隙に、両端を螺設(雄螺子)した縦鉄筋(最下端のものは基礎盤に固定するものと解される)を挿入し、この縦鉄筋をブロツクの上面部の凹溝内に嵌装した帯状板の穴に嵌入突出せしめ、この突出部に雌螺子を螺着することによつて帯状板の下側のブロツクを堅圧し、縦鉄筋の先端は螺着した雌螺子の孔の途中までしか達しないようにし、その上の空孔に他の縦鉄筋を螺着して継ぎ足し、右のような各段ごとの縦締めを順次繰り返すという方法によつて作られる鉄筋コンクリート壁体の構造に関する技術事項が示されている。

そこで、本願発明を、右の二つの公知例と対比すると、本願発明のねらいとするところは、すべて右の公知例のうちに開示されているというべきである。

すなわち、ブロツクを用いて壁を築造するに当つて、横鉄筋を、基礎盤に固定した左右の柱の強化物(第一公知例では両端の設立工形桿)に螺子止めして、各段ごとに横締めをしながら積み上げて行く方法は、第一公知例に示され(なお、第一公知例のものも、各段施工ごとに縦締めはしないが、最上段まで積み上げた後縦締めをするものである)、短尺の縦鉄筋の両端に雄螺子を刻設し、締付竿(第二公知例の帯状板)の上に突出した部分に締付器(第二公知例では単に雌螺子という)を螺着して締付竿を介して下側ブロツクを縦締めし、かつ締付器に別の縦鉄筋を螺着して継ぎ足し、これをくり返しながら順次ブロツクを積み上げて行く方法は、第二公知例に、示されているのである。

したがつて、これらの二つの公知例をもつてすれば、本願発明は、これらから容易に考えられる以上のものではないというほかはない。

原告は、本願発明と第一、第二公知例との相違点を挙げて、審決の認定を非難しているが、これらの主張がいずれも採用に値しないことは以下に説明するとおりである。

(一) 原告は、まず本願発明と第一公知例との相違点として、石積みとブロツク積みの差異があると主張している。そして、前掲乙第一五号証によれば、第一公知例における建造物の壁体は、これを構成する積石として大谷石を使用するものとされていることが認められる。しかし、この種の壁体の構成材料として大谷石のような石材を使用するか、いわゆるブロツク(コンクリートブロツク)を使用するかということ自体は、壁体築造の方法に関してなんら本質的な差異を生じさせるものではないのであつて、当業者において、適宜選択しうることがらにすぎない。したがつて、右のような石材を用いた壁体築造法について公知となつている技術事項をブロツクによる壁体築造法に適用しても、そのような点に発明の存在を認めえないことは明らかである。

次に、前記の原告主張の相違点に関連して、原告は、本願発明と第一公知例とは、モルタル類を挿入する構造の有無の点でも相違すると主張している。そして、前掲乙第一五号証によれば、第一公知例の積石に長立方形の大谷石の上面に横鉄筋を嵌合しうる細溝を設けただけであつて、各積石の縦横接面にはセメント・モルタル等の結合材を介在させるものであることが認められ、右の構造は、本願発明において用いるブロツクのように、上下面および両側面に凹溝を設けるとともに別にブロツクの上面から下面に貫通する孔を設け、隣接するブロツクの右凹溝によつて形成される孔と右貫通孔とにコンクリート等の凝結物を流入し充満させるようにしているのと相違しているものということができる。しかしながら、ブロツクの上下左右の面に凹溝を設け、これと隣接ブロツクの凹溝とによつて形成される孔に適宜補強鉄筋を配装したうえ、セメント・モルタルを充填して壁体を築造するようなことは本件発明の特許出願前すでに周知の事項に属し、このことはその方式趣旨から公文書(写)であることの明らかな乙第一号証(登録第六三、七四〇号実用新案の公報)中図面およびその説明の項の記載によつても明らかである。右凹溝のほかに貫通孔を設けこれに鉄筋を通すようにすることも、当業者が必要に応じてなしうる程度のことにすぎない。(乙第一号証のコンクリートブロツクも、ブロツクの中央部に貫通孔が設けてあり、ただこのブロツクでは右貫通孔に鉄筋を通さず通気孔としている差があるにすぎない。)また、原告は鉄筋を配装した孔にモルタル類を充填した場合における鉄筋の防錆効果の点にもふれているが、鉄筋を配装した凹溝(孔)にモルタル類を充填することがすでに従来公知である以上、その効果もまた従来のものと異なるものでないことも当然である。

(二) 次に原告は、第一公知例との相違点として縦締め構造の有無の点を挙げているが、本件審決は第一公知例のみでなく、第二公知例との二つの公知例をもつて拒絶理由としているのであるから、この相違点を挙げただけでは審決の判断が誤つているということはできないし、原告の主張する本願発明によつても、以上の二つの公知例にみられない格別の作用効果も見当らないので、この点の原告の主張も採用できない。

(三) さらに原告は、縦横鉄筋に不錆鋼材を使用することによつてモルタル類の充填を省略しうる点で、本願発明は第一、第二公知例と相違するとも主張している。しかし、原告の右主張は、本願発明では各段ごとにブロツクの縦締めと横締めを併用することだけでも十分堅固な壁体の築造が可能であるとの理由にもとづくものであるが、モルタル類の充填を省略した場合壁体の強度に及ぼす影響の点はしばらく別としても、第一、第二公知例の双方から本願発明のような縦締めと横締めを併用し各段ごとにブロツクを上下左右から堅圧する方法に想到することが容易であること前述のとおりである以上、原告の右主張の理由のないことは明らかである。のみならず、原告自身も明細書中において不錆鋼材を使用することは経済的見地よりして不適当であるとして、モルタル類を充填する場合のみを記載していることが前掲乙第二号証によつて認められるから、右の主張は本願発明の要旨以外の点に関するものともいえるのであり、いずれにせよ原告の右主張も理由がない。

(四) さらに、原告は、第二公知例との相違点として、本願発明では長尺の総螺旋つきの縦鉄筋を用い各段ごとに締付器で螺着するといつたような他の縦締め方法を施用することができるというが、このような長尺ものを用いることは、本願発明の構成要件とするところが短尺ものであることと矛盾することは明らかである。のみならず長尺ものを用いる点はすでに第一公知例のうちに示されているところであり、これを総螺旋つきとしておいて、各段ごとの縦締めを行なうことも、第二公知例が存する以上、当業者が実施にあたり適宜なしうる程度のことにすぎない。いずれにせよ前記のような原告の主張も採用できないこと明らかである。

(五) なお、前掲乙第二、第一五、第一六号証によれば、本願発明において円形その他平形でない締付竿に締付座金を併用して締付器を螺着する点、最上段のブロツク積みおよび締付けの終了後上端に突出した縦鉄筋を特許請求の範囲に記載されているようにして屋根張り基礎物へ固定する点など細部の点については、第一、第二公知例の各審決引用部分と相違する点の存することが認められるけれども、これらはいずれも単なる設計事項にすぎず、当業者において適宜に選択実施しうる範囲を出ないものと認められる。

以上要するに、本願発明の目的を達するための重要な構成要件と認められる事項は第一、第二公知例から当業者の容易に推考しうる程度のものであり、その他の点についてはこれら公知例との間に若干相違する点は存するが、いずれも当業者において適宜選択実施しうる範囲を出ないものといえるから、結局本願発明は全体として旧特許法第一条にいう発明に該当しないものとするほかはなく、これと同趣旨の本件審決には判断を誤つた違法はないものといわねばならない。

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